・映画の要約
『Vesper/ヴェスパー』は、2022年に公開されたリトアニア・フランス・ベルギー合作のアート系SFスリラー。監督はクリスティナ・ブオジテとブリュノ・サンペ。舞台は、生態系が崩壊し、人類が遺伝子改変された種子や生物に依存して生きる荒廃した未来の地球だ。14歳の少女ヴェスパーは、生存の知恵と独自のバイオ技術で、麻痺した父を支えながら生き延びている。ある日、墜落した飛行船から現れた謎の女性カメリアと出会い、彼女との交流を通じて、希望と未来を模索する物語が展開していく。
・映画の時間
上映時間は 114分。
・ネタバレ(起承転結)
起:崩壊した世界に生きる少女

生態系が崩壊し、人工的に作られた「シタデル」に住む富裕層と、それ以外の人々に分断された世界。ヴェスパーは森の中で、麻痺した父ダリウスと共に生きていた。父はドローンを通して彼女を見守り、ヴェスパーは持ち前のバイオハック技術で日々を切り抜ける。
承:出会いと信頼
ヴェスパーは墜落船から生還した女性カメリアを発見し、看病する。彼女は「ジャグ」と呼ばれる存在で、人間のように見えるが特別な役割を持っていた。二人の間には友情のような絆が芽生え、ヴェスパーは希望を見出す。
転:裏切りと犠牲
カメリアが持つ秘密は、支配的なシタデルの権力を揺るがすものだった。叔父ジョナスはその力を利用しようとし、ヴェスパーは危険に晒される。父の犠牲とカメリアの真実が明らかになる中で、ヴェスパーは大切な選択を迫られる。
結:未来への芽吹き
ヴェスパーは、カメリアの秘密を託された種子を森に蒔く。やがて芽生え始める新たな命の象徴を目にし、少女は未来を信じて歩き出す。人類の存続と自由への希望が、静かに提示されるラストとなる。
・この映画と似ている映画
- 『メッセージ』:異質な存在との邂逅を通じて、人類の未来を問う哲学的SF。
- 『ゼロ・グラビティ』:生存の極限状況を克明に描き、映像美で魅せるサバイバル劇。
- 『アンダー・ザ・スキン』:人間と異質な存在の間で揺れる不思議な共感を描いたアートSF。
・この映画を見れるサービス
※配信状況は変更になる可能性があります。
・総評
『Vesper/ヴェスパー』は、ポストアポカリプスの世界観を背景にしながらも、派手なスペクタクルよりも詩的な映像美と感情の余韻に重点を置いたSF作品である。
映像面では特筆すべき点が多い。森や廃墟、遺伝子改変された生物が放つ奇妙な光景が、恐怖と美しさを同時に伝える。グリーンバックを極力避け、自然光や実景を多用したことで、スクリーンに映る質感がリアルに迫ってくる。美術や造形はファンタジー的でありながら、現実的な手触りを伴っており、観客は「かつて存在したかもしれない未来」を体験できる。
物語の核は、14歳の少女ヴェスパーの成長譚である。彼女が置かれた世界は残酷で、周囲の大人たちは利己的に生きている。しかし、彼女は種を蒔くことを選び、自ら未来を切り開こうとする。そこには「生き延びること」と「人間性を保つこと」の両立を模索する姿があり、観る者に深い共感を呼ぶ。父との関係もまた、本作を支える重要な柱だ。肉体的に不自由になりながらも、娘を支え続ける父の存在は、崩壊した世界に残る“希望の象徴”として機能している。
欠点を挙げるなら、ストーリーの説明不足や背景の省略が、観客によっては不親切に感じられる点だろう。世界の成り立ちやシタデルの構造などは多くが暗示的に語られるにとどまり、すべてを理解しようとすると物足りなさが残る。しかし、それ以上に大切なのは、観客に想像させる余白を残していることであり、その芸術的なスタンスは本作の特徴とも言える。
総じて『Vesper/ヴェスパー』は、視覚的な魅力と人間ドラマを融合させた秀逸なアートSFである。派手なアクションではなく、静謐なイメージと寓話的な物語で観客の心を掴む。SFファンはもちろん、映像美を求める映画ファンに強く勧めたい一作だ。
・スタッフキャスト
- 監督:クリスティナ・ブオジテ、ブリュノ・サンペ
- 脚本:クリスティナ・ブオジテ、ブライアン・クラーク、ブリュノ・サンペ
- 音楽:ダン・レヴィ
- 撮影:フェリクサス・アブルカウスカス
出演
- ヴェスパー:ラフィエラ・チャップマン
- ダリウス(父):リチャード・ブレイク
- カメリア:ロージー・マクイーウィン
- ジョナス:エディ・マーサン
- その他:エドマンド・ディーン、メラニー・ゲイドス