・映画の要約
2023年に制作され、2024年に公開されたアイルランド発アクションスリラー『プロフェッショナル(In the Land of Saints and Sinners)』は、引退した暗殺者フィンバー・マーフィー(リーアム・ニーソン)が、静かな田舎町で再び武器を取る破滅的な運命に巻き込まれる物語です。
1974年、北アイルランドの混沌が続く時代。フィンバーは過去を背負いながら、小さな町でひっそりと暮らし、平穏を祈っていた。しかし、IRA系テロリストの一味が町へ逃れ、地元の少女への暴行を知った彼は、正義と暴力の境界線を踏み越えることとなる。刀と銃を手に、彼は新たな敵に立ち向かい、必然の戦いが幕を開ける。
豊かな自然を背景に繰り広げられる、泥臭くも洗練されたアクションと、戦士として、そして一人の男としての葛藤が交錯するストーリーが、107分間の中に濃密に詰め込まれている。
・映画の時間
本作の上映時間は 106分。テンポ感と緊張感が計算された構成で、退屈する瞬間はほとんどない。
・ネタバレ(起承転結)
起:静寂と不穏の兆し
1974年、フィンバーは妻を失い、静かに過去から逃れるように田舎町での日々を送っていた。地元の本屋と図書館で穏やかな時間を過ごす彼のもとへ、IRA系一味が逃げ込んできたことが物語の発端となる。
承:暴力の侵蝕
彼らの中の一人が地元の少女を暴行していることが明らかに。静けさを壊されたフィンバーは、再び“業”を纏い、剣と銃を手にして逃亡者たちへ制裁を行う。彼の動機は復讐ではなく義、そして保護者としての責任感だった。
転:過去との再会
フィンバーはかつての犯罪組織の関係者や町の警察と交渉しながらも、一味との直接対決を強いられる。IRAリーダーであるドワイラン(ケリー・コンドン)との一騎打ちは、単なる暴力を超えた“魂の対峙”へと発展する。

結:復活と救済
最終決戦は町のパブで起きる激しい銃撃戦。その中で、フィンバーは自らの過去と決別し、新たな未来への道を切り開く。彼の選択は、復讐ではなく再生の始まりとして描かれ、静かな静寂とともに幕を閉じる。
・この映画と似ている映画
- 『ザ・マークスマン』(2021):過去と向き合いながら家族を守る元軍人ヒーロー。
- 『タイタンの戦い』(1984/ないしヒットマン系映画):孤独な戦士が再び立ち上がる物語。
- 『コール・オブ・ザ・ワイルド』(2020):厳しい自然と人の心を描く叙情的な復活譚。
・この映画を見れるサービス
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・総評
『プロフェッショナル』は、静寂に宿る暴力と再生を描きながら、スクリーンに“魂の叫び”を刻む孤高のアイルランド・ウェスタンだ。リーアム・ニーソンが演じるフィンバー・マーフィーは、歳月と罪を背負いながらも刹那の正義を選ぶ男である。剣を抜き、銃声を響かせるたびに、彼の内面の葛藤と痛みが徐々に剥がれていく描写は、単なる“アクション映画”にとどまらない深さを醸し出している。
演出面では、豊かな自然と緊張感を共鳴させる映像美に舌を巻く。灰かぶった大地と深い緑の対比が、戦いのあとに訪れる静けさをより際立たせ、物語の叙情性を高める。剣撃と銃撃のリズムに合わせて、音響と編集も心地よい緊迫状態を構成。戦士の身体と音が共鳴し、スクリーンの奥に引き込まれていく。
ところが、物語のトーンに若干の揺らぎも感じる。IRA一味の背景や心理描写にもうひと掘り欲しいという思いを抱く瞬間がある。彼らの動機が“単なる障害”として扱われがちな点は惜しいが、一方でフィンバー自身の内面に集中させたいという意図の現れともいえる。そのため、観る者は暗黙の“感情補完”を求められる構成でもある。
それでもなお、本作の核は「死と向き合う男の再生譚」であり、それは紛れもなく成功している。銃声と静寂の間に立つフィンバーの表情が、その痛みと救いを語っているからだ。深く息をついて、塵舞う夕暮れの町を見つめる彼の背中は、観客の胸にも静かな余韻を残す。
総じて、本作は“静かなる暴力”と“穏やかな再生”が交錯するドラマ性を備えたウェスタンアクションであり、リーアム・ニーソンの俳優人生を象徴するような力強い一篇だ。過去と決別し、新たな生を選ぶその背中が、観る者の胸に芯のある感動を与える。アイルランドの風が吹き抜けるスクリーンの奥で、彼は再び“プロフェッショナル”として立ち上がった。
・スタッフキャスト
- 監督:ロバート・ロレンツ
- 脚本:マーク・マイケル・マクナリー、テリー・ローン
- 製作:マルクス・バーメットラー、フィリップ・リー、ボニー・ティマーマン、ジェラルディン・ヒューズ、テリー・ローン、アドリアン・グラベ、ダニエル・フルリ
- 撮影:トム・スターン
- 編集:ジェレマイア・オドリスコル
- 音楽:ディエゴ・バルデンウェグ/ノラ・バルデンウェグ&リオネル・バルデンウェグ
出演
- フィンバー・マーフィー:リーアム・ニーソン
- ドワイラン・マッキャン:ケリー・コンドン
- ジョン・ケヴィン・リンチ:ジャック・グリーソン
- ヴィニー・オシェア:シアラン・ハインズ
- ロバート・マククエ:コルム・ミーニー
- シネード・ドーガン:サラ・グリーン
- カーティス・ジュネ:デズモンド・イーストウッド
- リタ・クイン:ニアム・カサック